2013/05/18

ペグの調整


「チューニングしようと思ったらペグが固くて全然動かない。」

「ペグを回すとパキパキ音がして微調整ができない。」


しばらくヴァイオリンを弾いている人なら、そんな経験が必ずあるはずです。
原因は色々考えられますが、大抵の場合はちょっとしたメンテナンスで大きく改善します。




まずはペグについて理解を深めるために仕組みを見てみましょう。
ペグの材質は主にエボニー(黒檀)、ローズウッド、ボックスウッド等の比較的堅い木材でできています。また、その形状を見ると先端に行くにしたがって細くなっているのがわかると思います。このような形状のことを「テーパー」と呼びます。ヴァイオリンのペグの場合、このテーパー比は30:1が標準です。すなわち30mm先端に進むと1mm細くなるという寸法です。もちろんペグボックスに開いている穴も同じテーパー比となっています。
先端に行くほど細くなっている。
何故このような微妙な形状になっているかというと、ペグの押し込み加減によってペグと穴との摩擦力を調整することができるからです。ペグを押し込みながら回すとペグを固定することができるし、少し引き抜き気味に回すと引っかからずに回せることは、ある程度経験のある人なら知っているでしょう。



では、最初の例のようにペグが固くて動かなかったり、パキパキ音がして微調整ができない場合は少し引き抜き気味に回せば良いのかと言うと、これにはNOと言わざるを得ません。押し込み具合でペグの摩擦力を調整できるのは正しくメンテナンスされた場合のみです。

どのような場合に調整が必要か、その原因と対策を見ていきましょう。


弦によるペグの押し込み

まず1つ目は、写真のように巻いた弦がペグボックスの壁に接している場合です。この状態でペグを回すと、弦が壁を押している反作用でペグがどんどん中に押し込まれることになり、大きな摩擦力がかかってペグが回らなくなります。
G線が壁に接した状態
このような状態を解決するには弦を一旦緩めて巻き直す必要があります。下の写真のように弦を通した穴から反対側(ツマミと逆側)に2~3回転ほど巻いてから弦をクロスさせ、通常通り巻いていくことでペグの巻きしろに余裕ができて壁に接することもなくなります。
最初に反対側(右側)に巻いてからクロスさせてツマミ側に巻くことで壁との間に余裕ができる。


また、全く逆の話になりますが、ペグに摩擦力が無く滑ってしまう場合には、わざと壁に接した巻き方をして摩擦を得るという方法があります。


ペグの表面粗さ

ペグの表面状態によっても回りにくくなることがあります。特にペグの素材の密度が均一でなかったり、柔らかくて剛性が低い素材である場合に顕著に見られます。

このような場合はペグコンポジションという潤滑剤を使うことで改善できます。有名なのはHillによるもので、口紅やスティックのりのようなケースに茶色いクレヨンのような固形の潤滑剤が入っています。
Hillのペグコンポジション
ペグを取り外して、穴に接する面にペグコンポジションを塗ります。ペグボックスに差し込んで何回か回して馴染ませたら、元通りに弦を巻くだけです。塗りすぎると弦を巻いた時に止まらずに緩んでしまうので少しずつ塗って様子を見た方が良いでしょう。


ナット(上駒)の摩擦

ナット(上駒)の溝に弦が押し付けられることで摩擦が発生します。ペグの摩擦に比べると小さいものですが、巻き線の劣化にもつながるので、弦を外したついでにメンテナンスしておきましょう。
メンテナンス方法は4B以上の濃い鉛筆でナットの溝を塗るだけです。柔らかい黒鉛(炭素)の滑りにより摩擦を減らす効果があります。HB等の薄い鉛筆は硬い粘土成分が入っているため溝を削ってしまう恐れがあります。必ず柔らかい鉛筆で行うようにしましょう。
鉛筆でナットの溝を塗る



ペグ・穴の変形

それでもペグの動きが改善しない場合はペグや穴の変形が考えられます。ペグもペグ穴も長年の使用で磨耗していきます。それによりテーパー形状が崩れてきたり、穴の断面が円形ではなく楕円形に擦り減ったりするとペグを回し辛くなります。

このような場合はペグや穴の再加工が必要になります。加工を行うにはペグリーマーやペグシェーパーといった専用工具を必要としますが、工具があればできるというほど大雑把な作業では無いですし、場合によってはブッシングという穴を埋め戻す作業を行う必要があります。ここまで来ると、もはや自分でできるメンテナンスの範囲を超えていますので工房に持って行って専門の職人さんに任せるべきでしょう。




ペグの状態が音響面に大きな影響があるわけではありませんが、チューニングが容易にできることで精神的にも余裕ができますし、ヴァイオリンの数少ない可動部の状態を知ることで、どのくらい楽器を酷使したかを知る指標ともなります。

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